樹海の夢

天野 景

 

 

 1.

 わたしわさぶろおさまおまている

 さぶろおさまわかならずきてくれる

 わたしわそれまでここでさぶろおさまおまている

 

 

 2.

 さぶろおさまわすばらしいおかた。わたしのよないえのなまえおもたないおんなもすいてくださる。

 さぶろおさまわしゅぎょおがおわたらけこんしよおといてくれた。けこんしたらずといしょにいれるそおだ。わたしわさぶろおさまとずといしょにいたい。

 でもさぶろおさまわとおいところえしゅぎょおにいてしまた。わたしわさぶろおさまおまていたがまわりのひとたちわわたしおたたいたりいじめたりする。

 まわりのひとたちわさぶろおさまとわたしわけこんなどできないとゆう。さぶろおさまといてることがちがう。わたしわさぶろおさまおしんじる。さぶろおさまがいてくれたのだからきとそおなのだ。

 でもまわりのひとたちわわたしおしんじない。さぶろおさまおしんじない。

 わたしわいしおなげられぼうでうたれむらからおいだされた。おいだされたわたしわじゅかいとゆうばしょえつれていかれた。みながこわいかおでにらみいしおぶつけるのでわたしわじゅかいにはいるしかなかた。

 わたしわみながいなくなたらじゅかいおでてこそりさぶろおさまおまとおとおもたがじゅかいのなかでまよてしまた。

 わたしわおなかがすいてきた。もおあるけなくなたときわたしのまえにだれかがたた。

 さぶろおさま。

 わたしわそおおもた。でもちがた。

 そのおとこわわたしおあないした。じゅかいのおく。おおきないえにきれいなおんなのひとがいた。

 わたしわそのおんなのひととはなしおした。

 おんなのひとわわたしにいた。おまえのゆめおかなえてやろお。

 わたしのゆめわさぶろおさまとずといしょにいること。

 

 

 3.

 今にして考えれば分かる。サブロウ様は長い伝統を持つ由緒正しき家柄。サカモトという家名を持っていらっしゃるのだ。

 それに対して私は家名を持っていない。ただのキヨカという名の女にすぎない。

 昔からこの地では、家名を持つ者と持たざる者の間には厳然たる区別が行われていた。今の私にはそれがよく分かる。

 大昔、この地に人がやってきたときのことだ。人がこの地に住むことは難しかった。祖先たちが元々いた場所に似てはいたが、まったく同じだというわけではなかった。風土病もあった。見たことのない生物もいた。どこかしら似ているだけに余計性質が悪かった。

 祖先たちのうち、自らの身を犠牲にしてこの地へ溶け込もうとした者たちがいた。彼らは子どもたちを作り、この地の礎となった。が、同時に彼らの犯した無理は彼ら自身の中に堆積し血を濁らせていった。彼らはそうならなかった者たちによって「穢れた者」として扱われることになった。その名は忌まわしいものとして封印され、いつしか彼ら及び彼らの子どもたちは家名を持たない者となっていった。

 私は家名を持たない。

 血の濁りは薄れたものの、いまだに隔たりは残っている。家名を持つ者と家名を持たない者が結婚をすることなど社会通念上許されることではなかった。感情的な面からもそうだし、これまでの例からそうした形の密通で生まれた子が悲惨な状態になる可能性が高いのだ。

 だから、サブロウ様と私が結婚するかもしれないという話が周囲に受け入れられなかったことは、当然過ぎるほど当然だったのだ。家名を持つ者にはとんでもない話だったし、家名を持たざる者にとっては真の開拓者としての内なる誇りを汚すものだった。

 それゆえ、私は樹海に追放された。梅雨時の樹海は、もっとも生命力に満ち、活動が盛んだ。同時にそれは最も危険な季節であることを意味してもいた。

 私は樹海の中で、船を見た。そこでまた様々なものを手に入れた。こうしてたゆたいながら言葉を紡ぎ、思考を編んでいくこともそうだ。樹海に入る前の私なら想像すらできなかったことだ。

 同時に、それは私の限界をも指し示した。

 だから、私は夢を見るしかないのだ。

 しかし、何処から何処までが夢で何処から何処までが現実なのか。誰が断言できるというのだろう。

 

 

 4.

 ごろごろという不気味な音は、朝から曇っていた空が鳴っているのだと思っていた。雨が降ってきても、傘を持ってきているからどうにかなる。そう考えて黙々と作業を続けていた。

 私は、生臭い風を直接肌で感じるまで、何が起こっているのか分からなかった。気づいたときには、それが間近に迫っていた。

 サクノ竜。

 郷の北にある山脈に棲む怪物。退化した翼は飛ぶことはできないが、発達した尻尾と牙と爪が人間にとっては脅威だ。

 通常、サクノ竜は山から下りてこない。よほど飢えているときでなければ。

 私はまるきりこんなところで危険に遭遇するなど思っていなかった。いつものように郷から少し離れたところにある林の中で木の実を集めていたのだった。集めた木の実はすりつぶし、薬にする。この薬を私たちが使うことはなく、いくばくかの食糧と引き替えにこれらは郷の人たちのものとなる。

 これまで木の実を採っていて特に危険な目に遭ったことはなかった。まさかサクノ竜に遭遇するなど想像すらしたことはなかった。

 サクノ竜は私を食べるつもりらしかった。牙の間から滴る涎とぎらついた目の光が、竜の飢えを示している。

 恐ろしくて、逃げることも泣き叫ぶこともできなかった。

 ぐるぐるという唸り声。尻尾でばしりと地面を叩く。サクノ竜が口を開いた。同時に鋭い爪を伸ばして、私を引き裂こうとする。

 私は目をつぶった。私が食い殺されても郷の日々には何の不都合もないだろう。私のような女はいくらでもいる。私たちは消耗品でしかない。

 生臭い息が吹き付けられた。

 そのとき――

 激しい音がして、熱いものが私の顔に降り注いだ。驚いて目を開いた途端、その熱いものが流れ落ちて目に入る。痛かった。

 金属と金属がぶつかる音が立て続けに起こる。何があっているのか、私にはまるきり分からない。

 サクノ竜の咆吼が三度したと思ったら静かになった。重いものが倒れる地響きが続く。

「大丈夫か」

 男の人の声がした。布が私の顔を拭う。

 ようやく目を開くと、男の人がいた。その後ろでサクノ竜が倒れている。

「もう心配ない。あれは私が倒した」

 それがサブロウ様だった。

 よくよく見れば、男の人の手には刀が握られている。サクノ竜の血がついた刀だ。

「あ……」

 私は言葉を失う。刀を持っているということは、郷の人だ。郷の人とみだりに話してはならない。

 掟だ。

 サブロウ様は刀を振って血を飛ばすと、腰から太い刃のついた短刀を外され、サクノ竜を解体を始められた。

 血まみれになりながら説明してくださったところによれば、サクノ竜の目玉と骨髄と背骨を用いて、刀鍛冶に欠かせないサクノ珠というものができるそうだ。サブロウ様は刀鍛冶になるために、サクノ珠を獲りにいらっしゃったのだ。

 背骨を用いてサクノ竜の目玉を取り出し、骨髄をかけながら背骨で目玉を丹念に削られる。

 私は何をすることもできず、サブロウ様の手元を見ていた。削れてしまった背骨がなくなり、骨髄がなくなる頃、三つの目玉は同じ数の綺麗な珠になった。サクノ珠。これを用いれば立派な刀ができるのだろう。

 サブロウ様は立ち上がられて、私を見つめてにっこりと笑われた。

 ぽたり、と頬に滴が当たった。雨がとうとう降り出したのだ。私は持ってきていた傘をサブロウ様に差し掛けた。

「もうひとつ」

 サブロウ様は真剣な顔で私を見つめられた。

「刀鍛冶には必要なものがある」

 私は小首を傾げて、サブロウ様を見返した。

「サクノ竜の血を浴びた人間の肉だ」

 刃が身体を通り抜けたことに気づいたのは、私の肩から腰までが斜めに切断されてずれた後だった。

 視界がぐるりと回転して、夜に包まれた。冷たい雨が頬に当たる、それが私の最期の感覚だった。

「サブロウ様……」

 

 

 5.

「サブロウ、どうして分かってくれないの」

 私は興奮して叫ぶ。だが、サブロウは黙って首を振るばかりだ。

「このままだとみんな死ぬのよ」

 溜息をつくサブロウ。この人は、煮え切らない態度のまま死さえ迎えるのではないかと思えた。

「だが、何も君まで加わることはあるまい」

「誰かがしなければならないことなの。あなたはちっとも分かってない」

「しかし」

 なおもいうサブロウを私は制した。

「もういい。私は行くわ。さよなら」

 私は少ない仲間たちとともに船を出た。

 いくつもの視線が、船内からこちらに向けられている。その中には、私たちをこの地まで護衛してくれた一族のものもあるはずだ。サブロウの視線も。

 原住民との接触。

 こちらの船は故障し、進むことはできない。ここで食糧や必要なものを手に入れねばならなかった。平地に立つ母船は、まるで巨大な墓標のようにも見えた。その周囲には護衛船などが着陸している。こちらもまた、飛ぶことはできないでいる。

 他の船が無事でいるとは限らない。連絡はまったく取れず、私たちは孤立している。だからこそ、現地調達をするしかないのだ。いざとなれば武力を用いてでも。サブロウたちが賛同してくれなかったのはそうした意味では痛い。何しろサブロウたちは護衛の一族なのだから。

 原住民は、私たちと同じような人間に見えた。言葉は最初通じなかったものの、こちらが持ってきた通訳機がよく作用してくれた。

 だが、何が悪かったのか、結果として交渉は失敗に終わる。

 私たちは原住民に追われて逃げることになった。途中何人もの仲間が矢で射殺されたり、飛んできた槍に貫かれたりして倒れた。

 私の肩にも矢が刺さった。よろめいたところに、槍が飛んできた。腿を後ろから貫通した槍は、地面に私を縫い止めた。

 このままでは。

 私は倒れることもできず、痛みに呻く。

 このままでは、原住民たちと私たちとの戦になりかねない。平和を求めて出たはずの私たちが事態をますます深刻なものにしてしまった。

 何が悪かったのか。

 ぼんやりしてきた頭の中で考えるが、思考はまとまらない。

 ごろごろと空が鳴いている。雨。私は顔を上げた。かすむ目ではもう空は見えなかった。降り出した雨が、私の傷に当たり痛みとなって弾ける。

 近づいてくる原住民たちの蹄の音を雨の中に感じながら、私は彼のことを想った。

 サブロウたちがいてくれたならば。

 サブロウに会いたかった。

 会いたかった。

 サブロウたちが助けに来てくれる。

 きっとそうだ。

 サブロウが助けに来てくれる。

 サブロウ……

 もう一度会って。

 後頭部に鈍い衝撃が破裂し、私は前に倒れた。ぶちぶちと槍が腿を引き裂く音がしたが、とうに私は悲鳴をあげることもできなかった。

 世界が溶暗し、私は闇に飲まれた。雨でゆっくりと身体が冷えていくのが分かった。それが最期。

「サブロウ……」

 

 

 6.

「何ということだ」

 何が起こったかを理解した私は、怒りと侮蔑を込めて吐き捨てた。

 原住民たちに同化してしまった者たちに対しての言葉だ。

「たしかに」

 生きてここに残った最後の護衛が頷く。護衛の一族の若長だ。名前も忘れてしまった。他の者たちは私にとって見知らぬ世界の住人になってしまった。

「キヨカ様、いかがなさいますか」

 私はひとりだった。

「帰りたい……」

「いずこへ」

 護衛の若長が問い返す。そもそもこの男は何故ここに残ったのだろう。眠ったままの女がいつ目覚めるかも分からぬ状況だったというのに。

 そう尋ねると、若長は刀の柄をこちらに向けた。

「私はあなたの護衛です。母なる者」

 かしこまっていわれても事態が好転するわけではない。私は男の言葉を無視した。

 私は船の第一世代最後の人間なのだ。原住民などと交わった者たちとは違う。

 そう思うと、一層望郷の念が強くなる。帰りたい、という想いが猛烈に強くなる。

 幼い頃を過ごしたあの場所へ。私の父や母や兄が生まれた場所へ。

 遙かなる故郷へ。

「いかにすれば帰れるだろうか」

 無理なことは分かっている。だが、口にせずにはいられなかった。

 窓の外を見れば激しく雨が降っていた。そこに見える景色は、故郷と似て非なるもの。胸が締め付けられるようだった。

「これを用いれば」

 サブロウが差し出したのは、果実の種らしきものだった。

「我が一族に伝わります、種です。強い想いによって育ち、強い想いを叶える力があるとか」

 小汚い種だったが、私はそれを受け取った。

「どうすればよい」

 藁にもすがる思いで問うた。

「呑まれるのです」

 護衛がいう。私は迷わずそれを口に含んで、嚥下した。

 何かが腹の中で膨らむのが分かった。膨張した腹部から鋭い棘のようなものが飛び出る。飛び出た棘には蔦が続いていた。私は言葉もなく、自分に起こった異変を見つめることしかできない。

 激痛。疼痛。様々な痛みが身体だけでなく、心を襲う。

 たくさんの蔦が私の腹、私の胸、私の肩、私の背中、私の足、私の手から噴き出している。絡み合いながら、それらは伸びていく。自分が何か違う生き物になっていくような気がして私は悲鳴をあげそうになる。

「耐えるのです、母なる者。そうすれば、あなたの想いは一層強くなる」

 男の言葉に歯を食いしばった。

 私から伸びた蔦が船内を走り回っている。それが一歩も動かぬまま分かった。蔦は私の目であり、耳であり、手であり、足であった。

 船から出て地面にもぐった蔦の一部が変化して樹になった。船を中心に森が広がっていく。恐るべき勢いだった。この世界を、私が侵食している。私の、この世界に対する勝利。この世界が私に与えた不幸をすべて覆そうとしていた。

 伸びていく蔦は、私に力を送り込んでくれる。この力は万能だと私には分かる。すべてを司る生命の力、聖なる力。その力を蓄えよう。蓄えよう。そうすれば、やがて私は帰ることができるだろう。

「これで帰ることができるのだな」

 そう呟き、安堵した瞬間――

 何か滴が天井から落ちてきたのを感じた。船の中だ。不審に思って私はそちらを見上げる。天井を這う蔦から血のようなものが落ちてきていた。

 突然だった。

 血の色をした雨が私に降り注いでくる。呼吸を合わせるように、私の肘から先が抜けた。どろりと糸を引いて床に落ちる。

 私の身体はとうに腐っていた。ばらばらになっても蔦によって結ばれ、支えられている。蔦によって、私は生かされていた。

 私は護衛に手を伸ばす。しかし護衛は汚物に対するような目で転がっている私の首を見下ろし、後ずさった。

 私の視界は蔦に覆われて真っ暗になった。そのときになってようやく護衛の名を思い出した。血の雨に汚れた口が最期に動く。

「サブロウ……」

 

 

 7.

 雨の音が聞こえる。

 サブロウは私を愛してくれた。家系に問題があろうが、そんなことは関係ないといってくれた。

 周囲の冷淡な反応には、サブロウがいなければ耐えられなかっただろう。私は、サブロウがいるから、毎日を過ごすことができた。もしサブロウがいなければ、私はとうに死んでいただろう。

 子どもができたらしい、とサブロウに告げると、彼は一瞬驚いた顔をして、それから満面の笑みを浮かべた。

「よくやった、キヨカ」

 私も嬉しかった。子どもができたことそのものより、サブロウに喜んでもらえたことの方が嬉しい。

 サブロウは、私と生まれてくる子どものため、これまでよりも一生懸命仕事をするようになった。私も生活を支えるべく働いたが、あまり無理はできなかった。

 そうして、今日、ようやく子どもが生まれる日。

 産婆が子どもを取り上げ、その場で腰を抜かした。

「どうしたのだ」

 気配を感じて、サブロウが飛び込んでくる。

 産婆は言葉を発することもできず、腕に抱いた子どもをサブロウに投げるように渡した。

「――!」

 サブロウの顔に不快なものが走った。

「キヨカ……」

 サブロウは腕を傾け、私に子どもを見せた。子どもをくるんだ布を取って。

 私は悲鳴をあげた。

 子どもの丸い口にはぎっしりと牙が生えていた。上下だけではなく左右に、口を取り囲むようにして。濁った色の目はゆっくりと魚が回遊するように動いている。止まることがない。そして、足の指がなかった。そこにあったのは硬質化した蹄。首筋にはびっしりと鱗が張り付いていた。

 あまりの衝撃に、呼吸が止まりそうになった。

「どういうことだ」

 冷たい、サブロウの声。私は寝床からサブロウを見上げた。サブロウは無表情だった。彼のこのような顔は初めて見る。

「どういうことだ、と聞いている」

 サブロウの目が疑念と怒りに彩られていくのが分かった。

「これは私の子なのか」

 心臓が強く収縮した。今度こそ息が詰まる。

 サブロウは、私を疑っている。

「そんな――」

「これは、人の子ではあるまい」

 冷たい表情、冷たい言葉。

「お前は――」

 子どもを片手で抱いたまま、サブロウが刀を抜くのを、呆然と私は見ていた。

「せめて私の手で」

 刀を振り上げたところに、子どもが噛みついた。舌打ちをして、サブロウは子どもを投げ捨てた。腕に丸い歯形が真っ赤についている。血が出ていた。

「化け物め」

 サブロウは今度こそ私に向かって、刀を振り下ろした。

 私は悲鳴をあげることもできなかった。ただ、愛しい人の名を呼んだだけだ。雨の音が遠くなっていく。

「サブロウ……」

 

 

 8.

 人の心の樹海。

 樹海の中にある人の心。

 どちらもまた、正しい。どちらもまた、間違っている。

 夢によって、私は生きることができている。

 同時に。

 夢によって、私は生きることができないでいる。

 この二つは同時に真であることが可能なのだ。少なくともこの想いが生み出した世界の中では。この世界にいる限り、私は生きているし、死んでいる。

 母なる女はとうに死んでいる。と同時に生きてもいる。

 護衛もまた。

 刀鍛冶に殺された竜は死んでいる。と同時に生きてもいる。

 私もまた。

 この世界にあるすべてのものは、正常であると同時に異常であり、正しいと同時に間違っている。

 私たちには夢を見ることしかできない。連結された意識、連結された夢、連結された想い、連結されない未来と過去と現在。内宇宙と外宇宙はその境界を曖昧にする。私たちにとって、現実とは夢であり、夢とは現実なのだ。

 想いは現実を受け止め、夢を生かす。想いは現実を侵食し、夢を壊す。

 それが真実であり、同時にそれは真実ではないのだ。

 

 

 9.

 ゆめのなかにうかんでいるとさぶろおさまがやてきた。そとわあめ。

 むかえにきてくれた。

 わたしわうれしくなてさぶろおさまのなまえおよんだ。

 さぶろおさまもわたしにきずいてくれた。こちらにちかずいてくる。

 さぶろおさまがておのばしわたしにさわろおとしたけれどゆめのまくがあるからさわることわできなかた。

 わたしもておのばしさぶろおさまにさわろうとしたけれどゆめのまくがあるからさわることわできなかた。

 さぶろおさまわかたなおぬいた。わたしにむかてなにかいてる。ゆれるゆめではきりとわからない。

 さぶろおさまわかたなでゆめおきるつもりだ。なんとなくそうおもた。

 さぶろおさまわかたなのめえじんだ。むかしわたしおたすけてくれた。

 こんどもたすけてくれるだろお。

 さぶろおさまがかたなおふた。

 ゆめがやぶれわたしわゆめのなかからおちた。

 さぶろおさまにておのばした。けれどわたしのてがなかた。わたしのてわゆめのなかにのこてた。あるいてとりにいこおとしたらひざからしたがなかた。

 さぶろおさまわわたしのゆめおきられた。

 わたしわさぶろおさまにきられてしまた。

 ゆめののこりにつつまれてわたしわなにもみえなくなた。あめがわたしをぬらす。

 さぶろおさま。

 わたしにわもおさぶろおさまもみえなかた。

 

 

 10.

 わたしわさぶろおさまおまている

 さぶろおさまわかならずきてくれる

 わたしわそれまでここでさぶろおさまおまている

 さぶろおさまわわたしおむかえにきてくれるやくそくおしたからださぶろおさまわやくそくおやぶるよおなおかたでわない

 ここでさぶろおさまをまているわたしはゆめをみている

 そとであめがふてるかどうかわたしにわわからないただここでわたしわさぶろおさまをまている

 そしてさぶろおさまがやてきてわたしにむかてておさしのべる

 わたしわもさぶろおさまにむかてておのば

 

Ver.1.3. 2000.7.10.

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