「Birthday」
とくん、とくん。とくん、とくん。やさしい音が全身をつつんでいる。
あたたかい海のなかに、ぼくは漂っている。
どのくらい、ここにいたのだろう? わからない。過ぎ去った時間はつかみきれなかったが、それはこれkらの未来の長さにくらべたら、ほんのひとにぎりのものだったような気がする。
ぼくは知っていた。ここに来る昔、幸せだったことを。愛し、愛され、輝く時間を生きていたことを。ぼくが愛した人々は、いまごろどうしているのか。ぼくがいなくなっても元気でやっているのか。
ぼくは、ゆっくりゆっくりと思い出しはじめた。ぼくが生まれたときのこと。学校に通いはじめたときのこと。友だちと遊びまわったこと。はじめて、人を好きになるということを知ったこと。
さまざまな人やものから、いろんな影響を恩恵をうけてきた。彼らが、ぼくという人間をつくりあげてきたのだ。ぼくは、はたして誰かにとって影響をあたえる「彼ら」たりえたのだろうか。
無数の泡が浮かびはじめた。思念がはじけ、夢想は中断せざるをえなかった。記憶が、思い出が、泡の中に抱き込まれ次々に消えていく。
すべてがやさしくひとつになった。ぼくは幸せだった。
そして、ぼくはうまれた。