「V.Day」
 
 心臓の鼓動が、身体中ではっきりと感じられる。どくん、どくん、どくん。
 
 体が緊張し、小さな包みを握りしめた手が小刻みに震えている。
 
 え、なぜかって? 今日は二月十四日なのよ、わかるでしょ。
 
 そう、前から憧れていた彼に、これを渡すの。決心するのに何ヵ月もかかったんだから。
 
 彼のクラスに行く。彼の姿は見えなかった。友だちにそれとなく聞いてみたら、彼女は「ははーん」と笑って首を振った。「彼、今日風邪で休みなのよ。残念ね」
 
 神さまは私にイジワルするのが好きらしい。「家教えたげよっか?」という友だちの言葉を蹴っ飛ばして、私は自分の教室に戻った。
 
 神さまめ、ふーんだ。私はとっくに彼の家くらい知ってんのよ。帰りにお見舞いに寄ってやるもんね。邪魔できるもんなら、やってみなさいよ。
 
 数学の教師をイジワルな神さまに見立てて、さんざん心の中でののしった。その報復が、まさか放課後にくるなんて思いもしなかった。急に空が灰色のカーテンに覆われ天が雨もりを始めたの。その雨もりはすぐに滝のように激しくなっちゃって。
 
 ほんっとに、神さまってイジワルなんだから。
 
 イヤがる友人を引きずって(本当は彼女の持ってる傘が目的だったのよ)彼の家へと足を向ける。
 
 あった! 玄関のチャイムを鳴らすと、しばらくして彼が出てきた。
 
「あの………これ」
 
 心の中で神さまにざまあみろと舌を出しながら、私は小さな包みを彼に差し出した。
 
 



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